ブラックリューシとテキサスリューシ その2

さてさて前回はブラックラットスネークのリューシとテキサスラットスネークのリューシの違いについてのお話でした。
その中で両者の違いについて

  • ブラックラットスネークのリューシは不完全顕性遺伝(ヘテロだとラスティ)
  • テキサスラットスネークのリューシは単純潜性遺伝(ヘテロだとノーマル)

ということを挙げました。

で、ここまではいいとして、以前から気になっていたことがあるのですよね…

ban
ブラックラットのリューシとテキサスラットのリューシをかけたらどうなる…?

まあ普通に考えれば不完全顕性のブラックリューシと潜性遺伝のテキサスリューシなんだから、単純に考えればラスティhet.テキサスリューシが生まれるはずだけど……

などと悶々と考えていた時のこと。

ブラックラットリューシの子にノーマルが?

そんなある時、Twitterのフォロワーさんであるナトさんのところでブラックラットスネークのリューシスティックのオスとノーマルのメスからの子供が誕生したのですが……

あれ……っ
ブラックラットスネークのリューシスティックは不完全顕性…
つまり、ブラックラットリューシ×ノーマルの子供は全てラスティになるはずなのに、明らかにノーマルがいますね……!!??

もう少し分かりやすいように一部画像を個別でも掲載させていただきます
(※ナトさんの承諾済み)

©ナトさん
©ナトさん

やっぱりどこからどう見てもラスティとノーマルですね!
ハッチリングベビーの比較画像のお手本のようです。

さてさて、話は戻ってこのナトさんのところの件。
ブラックリューシ×ノーマルだから本来は生まれる子供全てラスティになるはずなのに、なぜかノーマルも生まれてきた不思議。

この生まれた子供にラスティとノーマルの両方が出る条件を考えてみます。

まずは前提として

  • ノーマル遺伝子をn
  • ラスティの遺伝子をR
  • テキサスリューシの遺伝子をt

とします。
その時

  • ノーマルはR遺伝子を持っていないのでnn
  • ラスティはR遺伝子をひとつだけ持っているのでRn
  • ブラックラットリューシはラスティ遺伝子のホモ接合体なのでRR
  • テキサスリューシはt遺伝子のホモ接合体なのでtt
    (つまりhet.テキサスリューシだとtn)

となります。

R遺伝子は不完全顕性遺伝のためひとつあるだけでラスティ(Rn)になり、2つ揃うとブラックリューシ(RR)になりますが、テキサスリューシは潜性遺伝であるため一つ持っているだけ(tn)では見た目はノーマル、2つ揃って(tt)はじめてリューシの表現となるのです。

私が勝手に分かりやすいようにnormalの頭文字n、Rustyの頭文字からR、texasの頭文字からtとしてるだけです。学術的に正しいわけでは無いのでご注意。あくまで分かりやすさ重視です。

……ここまではOKですかね…?(不安)

で、ブラックラットリューシ×ノーマルだと生まれる子供は必ずラスティになるというのは、分かりやすく言うなら
親のブラックリューシがノーマルのn遺伝子を持っていないので、子供は必ず親のブラックリューシからR遺伝子を受け継いで生まれてくるためです。

ではなぜ今回ナトさんのところではブラックラットのリューシスティック(RR)×ノーマル(nn)なのにラスティだけでなくノーマルも生まれたのか??

ban

A.上記の説明の通りです。つまりブラックラットリューシではないからです。
ブラックリューシではなく、実はテキサスリューシであるなら子供はhet.テキサスリューシで表現型はノーマルの子供が生まれる、というわけです。

先ほどの記号で表すなら

▼テキサスリューシ(tt)×ノーマル(nn)
 =見た目上ノーマル(tn)

となります。

でもノーマルとラスティの両方が生まれてますよね?矛盾しませんか?

疑問はご尤もなのですが、矛盾はしないのですねこれが。
これも理由は簡単な事です。オス親のリューシ君がR遺伝子も持っていたということです。
つまりテキサスリューシかつラスティ(tt/Rn)であれば、ノーマルとの子供にはノーマルhet.テキサスリューシ(tn)とラスティ(Rn)の両方が生まれるのです。

ちなみにオス君がテキサスリューシかつブラックリューシ(tt/RR)の可能性は子供にノーマルが生まれている時点で無いです。
上でも説明したように、ブラックリューシ(R遺伝子を二つ持っている/n遺伝子を持っていない)なら子供は全てラスティになるので。

上記の事から、ナトさんのところのリューシ君は❝テキサスリューシかつラスティ(tt/Rn)❞なのではないか?と私は推測しました。
本来はR遺伝子も持っていてラスティでもあるのですが、テキサスリューシの表現が前面に出て体色は真っ白になり、ラスティの表現は隠れてしまっている状態ということですね。

話が長くなってしまいましたが、この記事の一番最初の私の疑問をもう一度見てみましょう。

ban
ブラックラットのリューシとテキサスラットのリューシをかけたらどうなる…?

そう、今回ナトさんのところでの繁殖結果でヒントを得ることが出来ました。

テキサスリューシ(tt)かつラスティ(Rn)の個体が存在するということは
ブラックラットリューシ(RR)×テキサスリューシ(tt)の子供はラスティhet.リューシ(Rn/tn)になるのではないかと。

うん、普通に考えるならそうでしょうね…

……でも本当に????

本当にそうですかね????

同じ種で複数のリューシがある例と言えば、ご存じ天下のボールパイソン。
(ブラックラットとテキサスは亜種関係ですが)

しかしあれもBELコンプレックスという複対立遺伝のインフレみたいなことになってるじゃないですか…
ブラックリューシとテキサスリューシ、対立遺伝の可能性ありえると思うんですよね…。

つまりブラックリューシとテキサスリューシの遺伝子が対立関係にあったとすれば、ナトさんのところのオス君がR遺伝子とt遺伝子ひとつずつしか持っていない状態のリューシ(Rt)であるため、子供にラスティとノーマルhet.テキサスリューシの両方が出現する、という可能性もありえるのです。

ちなみに対立遺伝とは

平たく言うなら互換性があるってことです。
対立遺伝でない場合は
▼ブラックリューシ(RR/nn)×テキサスリューシ(nn/tt)
 =ラスティhet.リューシ(Rn/tn)
ですが
もしも対立遺伝だと
▼ブラックリューシ(RR)×テキサスリューシ(tt)
 =リューシスティック?(Rt)
R遺伝子とt遺伝子、ひとつずつしか持っていないのに、リューシになる(かも)ということです。

このあたり詳しい説明は割愛しますので、より詳細に知りたい方はぜひご自身で調べてみてください。

ここからが本番です

実際に検証してみました

実は…いるんですよね、うちにテキサスラットスネークのリューシが。

もうすでに完全にアダルトの状態でやってきました。
恐らく2012~2013年生まれくらいじゃないかな?という感じです。
(引き取り個体だそうで詳細は曖昧でした)
落ち着いていればハンドリングできるのですが、とにかく食欲がすごいのでケージを開けるとすぐ飛び掛かってくる。
(これは飛びかかった後に『餌ちゃうかったわ…』って賢者モードになってる時の顔)

先日のブラックリューシとテキサスリューシその1の記事で紹介した、テキサスリューシに特徴的な色のついた鱗を持つ個体でもあります。

で、そこに交配しますはうち産のブラックラットレッドアイリューシのオス。

入浴を覗かれたしずかちゃんみたいになってる

このオスの父親は桔梗屋さんのブラックラットリューシ(確定)で母親はうちのほぼ間違いなくブラックラットリューシという個体。
(過去にラスティ・ラスティリコリスとかけてノーマルは一度も出たことが無い)

/飼い主のエッチ!!!\

さらに当のオス自身も昨年2匹のメス(アラバスターとラスティ)とかけて、全てラスティあるいはリューシだったのでまず間違いなくブラックリューシでしょう、という個体。

この2匹を検証交配しました。

今回の検証で得られる子供のモルフを予測すると数パターンあるのですが
それを分かりやすく式で表すとこうなります。

R遺伝子とt遺伝子が独立している(対立遺伝でない)場合

ブラックラットリューシ(RR/nn)×テキサスリューシ(nn/tt)
 =子は全てラスティhet.テキサスリューシ(Rn/tn)となる

R遺伝子とt遺伝子が対立遺伝関係にある場合

ブラックラットリューシ(RR)×テキサスリューシ(tt)
 =子は全てリューシっぽい表現(Rt)となる

ぽい、というのはRRでもttでもないRtという組み合わせになるので、実際どういう表現になるかは生まれてみないと分からないからです…

もしそれ以外のパターンが出たら……

ちなみにこの交配でラスティとリューシの両方が出る、という可能性も無くはないです。
その場合は

  • R遺伝子とt遺伝子は対立関係にはない
  • テキサスリューシがR遺伝子をひとつだけ持っていてブラックリューシはt遺伝子を持っていない
  • 又は、ブラックリューシがt遺伝子をひとつだけ持っていて、テキサスリューシがR遺伝子を持っていない

ということが分かります。
しかしそうなると、オスとメスどちらがヘテロで持っているのかを来年以降に検証する必要が出てきますし、ぶっちゃけ困る

そしてそれのさらに上を行く困ったパターンが、この交配でリューシ、ラスティ、ノーマルの全てが生まれた時です。
それはそもそもブラックリューシがラスティのホモ接合…つまり不完全顕性ではない可能性が高くなってくるし、そうなると前提が全て崩れてくることになるので端的に言って

私がめちゃくちゃ困ります。


ドヤ顔でブラックリューシとテキサスリューシの違いについて語ってた以前の記事とか黒歴史モノですよ!!!!
たのむ!頼むからノーマルが出るのだけはやめてくれ!!!!(祈

そして……気になる検証の結果は…

ブラックリューシ×テキサスリューシの子

結果。15匹生まれましたが全てリューシでした。
これが5匹だけとかであれば、たまたま全てリューシだったけど…と迷うところですが、今回15匹も生まれ、その全てがリューシだったので確実な結果だと思っています。

結論
どうやらブラックラットスネークのリューシとテキサスラットスネークのリューシは対立関係にあるようです。

ということは、上で取り上げたナトさんのところのリューシ君も、テキサスラットスネークかつラスティではなく、ブラックリューシ(R遺伝子)とテキサスリューシ(t遺伝子)をひとつずつ持った個体ということになりそうです。

今回の検証、海外でもすでに行われていて既出なのかもしれませんが、実際にやってみることにも意味があると思ってます。
既出だったら是非教えてください……めっちゃ気になる…

問題はこれ

まだ話は終わりません。
以上の事から以下の問題点が浮かび上がってきます。

問題点

  • ナトさんのところのリューシ君が実際はR遺伝子・t遺伝子の両方を持つ個体だったので「ブラックラット×テキサスラットのハイブリッド」であるにもかかわらず、ショップで販売されていた時の種名は「ブラックラットスネーク」だった
  • リューシ君はベビーで購入されているので、少なくとも今から2~3年前にはハイブリッド個体が「ブラックラットリューシ」の名前で流通していた
  • ブラックラットリューシとテキサスリューシは対立遺伝なので、リューシ同士の交配だと子は全てリューシになり、たとえハイブリッドであっても気付かれずに流通している可能性が高い

これはね…困った事ですよ…
ショップでの種名が鵜呑みにできない、そしてリューシ同士の交配から生まれた個体でも鵜呑みにできないということになってくるので…

こうなってくると、新規に導入した個体にはまずリューシ以外の個体と検証交配をしてブラックリューシ(RR)なのか、テキサスリューシ(tt)なのか、あるいはハイブリッド(Rt)なのかを調べる必要が出てくるということに。

_(;3」∠)_

ban

ブラックラットリューシ&テキサスリューシのブリーダーの皆さん、頑張りましょうね!(૭ ᐕ)૭

最後に、今回の記事作成にあたって、ツイートの引用&画像の転載を快諾していただいたナトさん、本当にありがとうございました!!


▼補足

誤解があるといけないので注釈
この問題について、卸業者さんやショップさんに騙す意図があったとか非難するものではありません。
故意なのかどうか、今となっては分かりません。

「ただ事実としてすでに市場にハイブリッド個体は流通している。しかも相当数である可能性が高い、ブリーダーとしては困った」ということ。

誤解があるといけないので注釈2
ピュアなブラックラット、ピュアなテキサスラットこそ至高!!
ハイブリ(笑)

という意図の記事でもありません。
あくまで血統・モルフを管理したいブリーダーが困るだけの話で、同じブリーダーさんに向けた注意喚起のための記事です。

たとえあなたの飼われているリューシがハイブリッドであったとしても、なんらかの価値が下がるわけではありません。今まで通り、可愛がってやって下さい。

ちゃぶ台返しの可能性

テキサスリューシさん
まあ実は私がテキサスリューシでなくブラックリューシだったら、今までの話全部ひっくり返るんですけどね
ban
ら、来年以降にそこも検証させていただきます…
(リューシ以外のテキサスのオス探さなきゃ…)

ブラックリューシとテキサスリューシ その1

2019.10.05